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機械加工の現場で軸と穴を結合する方法の一つに「スプライン加工」があります。なかでも「インボリュートスプライン」は、自動車や工作機械の動力伝達部品として広く採用されている重要な要素です。本記事では、スプラインの基礎知識から、角形スプライン・セレーションとの違い、そして関連するJIS規格の最新動向まで、加工を依頼する設計者・購入担当者の方にも分かりやすく解説します。

スプラインとは

スプラインとは、軸の外周と穴の内周に、それぞれ凸部と凹部(歯と歯溝)を等間隔に削り込み、両者を噛み合わせることでトルクを伝達する機械要素です。キー溝による結合と異なり、歯が複数あることで広い接触面積を確保でき、大きな回転トルクを伝えられるうえ、軸方向にスライドさせる「摺動」機能を持たせることもできます。自動車のトランスミッションや工作機械の送り機構など、回転と直線移動を同時に必要とする部位で多用されています。

スプラインは歯形の断面形状によって、大きく次の3種類に分類されます。

  • 角形スプライン
  • インボリュートスプライン
  • セレーション

スプラインの種類と特徴比較

インボリュートスプライン

インボリュートスプラインは、その名のとおり歯形がインボリュート曲線で構成されています。これは平歯車の歯形と同じ原理であり、歯切り工具(JIS B 4350)も歯車用と共通のものが使用できます。歯元が太く応力集中が少ないため、角形スプラインよりも大きなトルクを伝達でき、かつ歯面で位置決めされることで高い同軸精度(センタリング性)を実現できます。この特性から、自動車の変速機でギアをスライドさせながら噛み合わせる用途など、精度と耐久性の両方が求められる箇所に多く採用されています。

角形スプライン

角形スプラインは、歯の側面が直線的で互いに平行な形状をしています。構造がシンプルで加工しやすく、軸のトルク伝達を目的に古くから使われてきました。JIS規格では軽荷重用と重荷重用の2タイプがあり、溝数は6・8・10の3種類が規定されています。比較的低コストで製作できる一方、歯元の応力集中がやや大きく、インボリュートスプラインに比べると伝達トルクや精度の面では劣ります。

セレーション

セレーションは歯形を三角形状にしたもので、歯元の幅が広く、かみ合わせに遊び(バックラッシ)がほとんどないという特徴があります。そのため、同等の外径であってもスプラインよりさらに大きなトルクを伝達できます。歯数を多く取れる反面、加工精度の管理が難しくなる傾向があり、一般的には外径60mm以下の比較的小径な軸に採用されることが多い加工方法です。

3種類はいずれも「軸と穴をギザギザ状の歯で結合する」という基本構造は共通していますが、歯形・伝達トルク・適用径・コストのバランスが異なるため、用途に応じた選定が重要になります。

スプラインに関するJIS規格一覧

スプラインの設計・製図・加工には、複数のJIS規格が関係します。ただし近年、インボリュートスプライン関連の規格は改廃が進んでおり、最新の状況を正しく把握しておくことが欠かせません。現時点(2026年6月)で確認できる主な規格は以下のとおりです。

規格番号内容現状
JIS B 0006製図-スプライン及びセレーションの表し方現行
JIS B 1601角形スプライン(小径合わせ)現行
JIS B 1193ボールスプライン現行
JIS B 4239インボリュートスプラインブローチ現行
JIS B 4350歯切り工具(歯形及び寸法)現行
JIS B 1602インボリュートセレーション廃止
JIS B 1603:1995インボリュートスプライン(歯面合わせ)2023年廃止
JIS D 2001自動車用インボリュートスプライン廃止(旧JIS B1603の附属書として一部内容が残存)
ISO 4156-1~3インボリュートスプライン(国際規格)現行・JSAによる対訳版を2025年3月に発行

各規格の詳細解説

JIS B 0006(製図での表し方)

JIS B 0006は、スプラインやセレーションを図面上でどのように表記するかを規定した規格です。歯数・モジュール・圧力角などの仕様を呼び方として記載するルールが定められており、設計図面を作成・読解するうえでの基本となります。

JIS B 1601(角形スプライン)

角形スプラインについては、JIS B 1601で小径合わせを基準とした寸法・はめあいが規定されています。軽荷重用・重荷重用それぞれの歯高さや、溝数6・8・10の各諸元が定められており、現在も現行規格として広く参照されています。

インボリュートスプライン関連規格の変遷

インボリュートスプラインの規格としては、長年JIS B 1603:1995(インボリュートスプライン-歯面合わせ-一般事項、諸元及び検査)が用いられてきました。しかし技術の進展に伴い実質的に参照されなくなったことから、この規格は2023年に廃止されています。

現在、国際的に認知されているインボリュートスプラインの規格はISO 4156-1~3です。これまで日本語訳が存在していませんでしたが、市場からの要請を受けて2025年3月に日本規格協会(JSA)による対訳版が発行されました。新規設計でインボリュートスプラインを採用する場合は、このISO 4156シリーズを基準に検討するのが実務上の標準的な対応となります。

なお、旧JIS D 2001(自動車用インボリュートスプライン)は圧力角20°・大径合わせという独自仕様を持ち、廃止後もJIS B 1603の附属書として内容自体は残されていました。しかし国際規格と整合しないため、新規の設計に適用することは推奨されていません。既存図面の引用としては有効ですが、新規製作品については最新規格との整合性を確認することが重要です。

インボリュートセレーション(JIS B 1602)の現状

インボリュートセレーションを規定していたJIS B 1602についても、現在は廃止されJIS B 1603に統合された経緯があります。実務上は、既存図面に記載がある場合は内容を踏襲しつつ、新規設計では現行規格や社内標準との整合を確認することが望ましいでしょう。

加工現場での選定ポイント

スプライン・セレーションのいずれを選定するかは、伝達したいトルクの大きさ、軸の外径、要求精度、コストのバランスで決まります。一般的には、

  • 高精度・大トルク・摺動機能が必要 → インボリュートスプライン
  • 簡易な動力伝達でコストを抑えたい → 角形スプライン
  • 小径軸で大きなトルクを伝えたい → セレーション

という選び方が目安になります。また、いずれの方式でもブローチ加工・歯切り加工など加工方法によって対応可能な歯数・モジュール・精度等級が異なるため、設計段階から加工現場と仕様を相談しておくことで、後工程でのトラブルを避けられます。

鳴滝工業では、角形スプライン・インボリュートスプライン・セレーションのいずれにも対応可能な設備と実績を有しており、規格選定から加工までワンストップでご相談いただけます。

よくある質問

Q. インボリュートスプラインと歯車の歯形はなぜ同じなのですか? A. インボリュートスプラインは平歯車と同様にインボリュート曲線で歯形が構成されているためです。そのため歯切りには歯車用と共通の工具(JIS B 4350)が使用できます。

Q. 角形スプラインとインボリュートスプライン、どちらを選ぶべきですか? A. 伝達トルクと精度要求で判断します。高トルク・高精度・摺動機能が必要な場合はインボリュートスプライン、シンプルな動力伝達であれば角形スプラインが適しています。

Q. JIS規格が廃止された場合、図面はどう扱えばよいですか? A. 既存図面の解釈としては旧規格の内容を踏襲できますが、新規設計の場合は現行規格(角形スプラインはJIS B 1601、インボリュートスプラインはISO 4156シリーズ)との整合性を確認することをおすすめします。

まとめ

スプラインには角形スプライン・インボリュートスプライン・セレーションの3種類があり、それぞれ歯形・伝達トルク・適用径に違いがあります。特にインボリュートスプラインに関するJIS規格は近年改廃が進み、JIS B 1603が2023年に廃止されてISO 4156シリーズが国際的な基準となるなど、設計者が押さえておくべき情報が変化しています。図面作成や部品調達の際は、最新の規格動向を確認しながら、用途に最適な方式を選定することが重要です。

スプライン加工に関するご相談は、鳴滝工業へお気軽にお問い合わせください。